rh日和(仮)

モノ、ゲーム、PCなどについてのブログ。

木の不思議

 僕には魔法は使えない。魔法が使えるのは彼女達だけだ。

 ここには大量の木が生えている。僕はそれを一本一本見て回る。それらは何の変哲もない普通の木だ。もちろん、僕は「普通の木」などというものが存在しないということを知ってしまっているいる。その土地における普遍的な木はさまざまだ。ある土地ではスギが、ある土地では松が、ある土地では樫が普通の木でありうる。
 しかし、それでもやはりこの大量の木は僕にとって普通の木でしかない。木の一本一本に何らの特徴を見いだせないのは、単に単に僕が疲れすぎているからかもしれない。
 
 そして、それぞれの木に一人ずつ、彼女達が住んでいる。
 彼女達は、僕がここにやってくるずっと前から木に住んでいる。どうやら彼女達が、魔法によって木の健康を守っているようだ。しかしそれが本当に魔法なのかどうか、確証があるわけではない。彼女達は僕に何も語りかけてはくれないからだ。
 ではなぜ彼女達が魔法を使っていると考えるようになったのか。それは「木にまつわる不思議」があるからだ。
 例えば僕が木の葉っぱをむしりとる。あるいは幹にスコップで傷をつけたとする。翌日木を見てみると、むしりとった葉っぱは元通りに枝から生えている。幹につけた傷はすっかり消え去っている。
 つまり、木は完璧に同じ状態をずっと保ち続けており、僕がどんなに手を加えようと、次の日には何ごともなかったように、前の日の朝と同じ状態に戻っているのだ。
 おかしいと思っていろいろ試してみた。最初の頃は、むしりとった葉っぱを握り締めながら床に就いてみたが、翌日葉っぱは跡形もなく消えていた。
 もっとはっきりとこの不思議に気づいた日は、幹に傷をつけ、その傷を一晩寝ずに見張っていることにした。しかし真夜中頃、ふと目を離した瞬間に、傷は音も無く消えていた。
 次の日の夜も同じことを試した。今度は真夜中頃になっても目を離さないように気をつけた。半月が前の日と同じくらいの高さに登った時、僕は傷が消える瞬間を見ることが出来た。しかし見たと言っても、やはり音も無く、傷が一瞬で消えて無くなっただけのことだった。その日から僕は木の不思議を追求することをやめてしまった。
 
 彼女達は身長10センチくらい、若い女性と同じような見た目で、ほんのり透けている。普段は木の周りをふわふわと浮かんでいるたり、木の根元に座っていたり、見えないくらい高い木のてっぺんのあたりを漂っていることもある。手を伸ばしても、蝶々のように逃げてしまい触れることが出来ない。