rh日和(仮)

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「GRIS」の感想およびストーリー考察について

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 インディーゲーム「GRIS」のSteam版をプレイした。今年のSteamサマーセールで買ったゲームその2。ビジュアル・サウンドが大変に美しい2Dアクション。

store.steampowered.com

 「アーティスティックなビデオゲーム」は数あれど、本作のような「アートそのものをまるごとゲーム化した」と感じられる作品にはなかなかお目にかかれない。実際に本作はスペインのアーティストの「自分のアートをゲームにしてみたい」との思いから作られたとのこと。

 www.famitsu.com

 ※以下、本作のネタバレが含まれています。

プレイした感想

 ステージを進む毎に現れる、めくるめく美しい情景を堪能することを主眼とした作品。攻略難易度は低めで基本的に一本道。その意味では2D版「風ノ旅ビト」といった印象。

 ちょっとした謎解き要素やアクション性もあり、若干詰まった部分もあったが少し頭を捻ったり画面を観察すれば先に進むことができた。

 ステージ内には白い小さな光の玉が置かれていて、それを集めることでギミックを動かしゲームを進めていくことになる。

 それとは別のコンプリート要素として、大きな白い円状の物体(実績名によると名称は「形見」、英語版は「memento」)が隠されていて、すべて集めてゲーム内のとある場所に行くと物語の新たな一端を知る事ができる。

 ビジュアル重視のゲームはこれまで色々プレイしてきたが、やはり「美しさ」が持つ圧倒的なパワーは人を感動させるなと実感した。

 ストーリーをクリア後、形見集めをすべて自力でやり、さらに攻略情報を見ながら全実績解除するまでのめりこんでしまった。


 テキストによる語りが全く無い本作のストーリーはとても謎めいている。

 物語のあらすじはSteamストアやSwitch英語版の説明文によると以下のようなもの。

  • 主人公でありプレイヤーキャラである緑髪の女の子の名前は「GRIS」
  • 彼女は「自分自身の世界(her own world)」に迷い込んだ
  • 物語の進行によって描かれるのは、彼女の精神的な成長

 そしてそれ以外の情報はプレイヤー自身が読み取るしか無い。

 というわけで自分なりに本作のストーリーを解釈してみたのだが、ちょっと検索してみても被っている意見が見当たらなかったので書き留めておくことにする。

ストーリー考察

 最大のポイントは本作の5つの実績の名称。カッコ内は実績獲得時に表示されるメッセージ。

  • 否認(第一段階)
  • 怒り(第二段階)
  • 取引(第三段階)
  • 抑鬱(第四段階)
  • 受容(第五段階)

 いずれもキューブラー=ロスが提唱した「死の受容のプロセス」と完全に一致している。不治の病などにより余命宣告された人物が、自らの死を受け入れるまでにたどる精神状態の変容を表している。

ja.wikipedia.org

 そしていずれの実績も、ステージ内にある女性の石像の前で特定のアクションをすることで解除でき、石像のポーズもそれぞれ5つのプロセスに対応しているように見える。

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受容(第五段階)解除シーン

 ここから導き出されるのは、石像の女性が死の受容のプロセスをたどっているということ。


 本作の舞台であるGRISの「自分自身の世界」が彼女の精神世界のことを指しているとして、ではそこにある石像の女性は誰なのか? ヒントとなるのは「形見」を全て入手した上で特定の場所に行くことで見られるムービー。

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 GRISと思われる少女と女性の2人が満月の下で座っており、大人と思われる女性がホタルのような光る物体を少女に渡す、という内容なのだが、その大人の女性の容姿が石像の女性にそっくりなのだ。

 そしてムービーを見終えると実績「子供時代」(英語版は「Childhood」)が解除される。

 このムービーの内容から自分が予想する、石像の女性の正体は以下の2パターン。

  • GRISの母親
  • 大人になったGRIS

石像の女性=GRISの母親説

 少女と女性が満月の夜に2人きりで座っているというシチュエーションからは、母と娘という関係が自然に連想される。

 つまり「ムービー内の女性」=「GRISの母親」=「石像の女性」という図式。

 そこから想像される本作のストーリーは、

 「何らかの理由で自らの死を受け入れる母親。その姿を間近で見ていたGRISは精神的ショックにより心を閉ざしてしまうが、自らの精神世界の中で母親の死と向き合い苦しみから解放される」

 というもの。ハッピーエンドと言っていいだろう。

石像の女性=成人したGRIS説

 もう一つの可能性として、ムービー内の女性はGRISの母親だが、石像の女性は母親そっくりに成長したGRIS自身の姿である、という仮説が考えられる。以下、その仮説。

 ムービーを見た後に解除される実績名「子供時代」。英語版の「Childhood」の直訳は「幼年期」であるが、いずれも過去形であり、現在のGRISが既に成人しているということを暗に示唆している。

 ステージ内に登場する石像はいずれもボロボロに崩れているが、これは現実世界のGRISの精神状態を表している。

 操作キャラクターである少女の姿のGRISは、彼女の自我、あるいはオルターエゴのようなもので、終盤でGRISと石像が歌のハーモニーを奏でることで、石像が修復される。これが彼女自身の精神の成長と回復を描いている。

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 本作のラストでGRISは星の架け橋をつたって空に登っていくが、これは昇天=死のメタファー。


 以上の仮説を採用するならば、本作のストーリーは以下のようにまとめることが出来るだろう。

 「自らの死の運命を知ったGRIS。それを受け入れられず心を閉ざしてしまうが、子どもの姿のGRIS=オルターエゴの活躍により精神の調和を取り戻し、自らの死を受容する」

 これが本作の隠されたストーリーだとするなら、かなりビターなエンディングだ。救いがあるのでハッピーとも言えるが。


 個人的には後者の説のほうが作中の様々な描写をすっきり説明できるのではないかと感じる。

 GRISの歌に反応して開く花が蓮(仏教において解脱=死を表す花)に似ているように見えること。ムービーを見るのに必要なアイテムが「形見」であることなど。なによりラストの収まりがいい。

 ただムービー内の女性が母親だとして、その母親がストーリーの根幹に関わっていないとしたら、わざわざムービーに登場させる意味が薄くなってしまう。その点だけは前者の説を後押ししている。

 なにより本作が「GRISが死を受け入れる物語」だとするとちょっと残酷すぎるかな、という気がする。

 いずれにせよ確定的な描写は無いので、解釈はプレイヤーの数だけ存在すると考えたほうが製作者の意図に沿っていると言える。

 なお制作者は「似たような状況にある人々にGrisの感情や克服の過程を見てもらい、最後にGrisと同じように感じることを願っている」と語ったそうだ。
ja.wikipedia.org


 各ステージの配色、およびそのステージをクリアした時の実績である「赤」「緑」「青」「黃」が「心理4原色」に対応している、という説をこちらのブログで見つけた。
mrms2000.com

 本作が精神分析家であるキューブラー=ロスの説を引用していることから考えてもその可能性は高いと思う。

 さらにその4色に白と黒を加えた6色を「心理学的原色」と呼ぶこともあるそうだ。「GRIS」はスペイン語で灰色という意味、つまり白+黒だ。

 自分はその出典である色彩心理学に全く詳しくないが、色彩から本作を解釈してみるのも面白いかもしれない。

 以前、「デトロイトビカムヒューマン」をプロの精神分析家がプレイする動画がYouTubeで話題になったが、同じように芸術批評の専門家が本作をプレイしたらかなり面白そう。
www.youtube.com