『ギルティギア ストライヴ』の話。今作から追加された、オンライン対戦のマッチングシステム「ランクタワー」および「天上界」について改めて考える。
これまでの格闘ゲームのランクシステムとは相違点が多く、なかなか斬新なシステムだと言える。
ランクタワーシステムの仕様と良いところ
ランクタワーモードに入ると1階~10階、および天上界が表示される。これまでの格ゲーにおけるロビーマッチと同じように、各階に入り、アバターを操作して対戦相手を選び対戦する。
対戦に勝つことで「適正階層」が上がる。例えば適正階層が8階になると、8階よりも下の階層には入室できなくなる。
この仕様はなかなか先進的。普通は「さらに上の階に入室できるようになる」という形でプレイヤーの昇格を表現したほうが直感的。しかしその逆の「下の階に入室できなくなる」という仕様になっている。
そのせいでプレイヤーの報酬体験が損なわれているということはない。なぜなら大抵のプレイヤーは適正階層の下限で対戦するため、プレイヤー体験としてはランクアップと実質的に同じだから。適正階層が変わると自動的にその階層に移動するUIや、ランクタワーモードに入ると適正階層の下限にカーソルが合わさっているUIのおかげもある。デザイン的に適切。
おそらくいわゆる「初心者狩り」や「格下狩り」を防ぐためにこのような仕様にしたのだろう。そしてそれは意図通りに実現している模様。少なくとも初心者狩りがはびこっているという話題はSNS等では出てきていない。もちろん意図的なランク下げ(いわゆるスマーフ)は出来るが、少なくとも「うっかり下の階層に入って格下相手に対戦してしまう」という事故は起こりにくい。
意図的に適正階層より上に行ける仕様もプラスに働いている。例えば8層のプレイヤーがあえて10層に入って対戦することで、腕試しをしたり、上位プレイヤーの動きを確かめて参考にしたり出来る。また格闘ゲーム経験が豊富で自信のあるプレイヤーは、最初から10層に入って早期のランクアップを目指しつつ、格下狩りを起こしにくくすることが出来る。
あえて直感に反する仕様にすることで様々なメリットを生じさせているのは、いわば「発想の勝利」と言える。
天上界システムの仕様と良いところ
全階層の中で唯一、「天上界」だけは特定のプレイヤーだけが入室可能。
10階で一定程度勝利を重ねることで、一時的に天上界に入室可能。天上界で6戦中5勝の成績を収めれば、その月は天上界に自由に入室できるようになる。この挑戦はプレイヤー間で「天上界チャレンジ」と呼ばれている。
天上界チャレンジの良いところは、初中級者(自分のような長年格闘ゲームを続けているが実力はぼちぼちのプレイヤーも含む)にとっての明確な目標として機能している点。上達へのモチベーションが生まれているし、天上界チャレンジに成功したときの達成感は大きい。
天上界への入室権は基本的に毎月リセットされる。天上界で一定以上の勝利数を重ねれば翌月も入室権を持ち越しに出来るが、かなりの実力者でないとそれは難しい。なので月が変わるごとにモチベーションが回復する形となる。
ランクタワーの問題点
ランクタワーシステムのマイナスポイントについて。
明確に悪い点は、適正階層が変わると自動的に階層が移動してしまうこと。上記で良い点として挙げたが、マイナスの面もある。
ランクタワーは1度のマッチングにつき最大3試合対戦が可能。格闘ゲームの醍醐味は、相手が取ってくる行動を見て、それに対してどのような動きが有効かを考えて実践することにある。かなりわかりやすく例えれば、起き上がりに無敵技を多く撃ってくる相手にはガードする、といったように。
そのような楽しみは、同じ相手とある程度連続で対戦することで生まれる。しかし階層移動が自動的に発生するせいで連戦が強制的に中断されてしまう。天上界チャレンジをしていると特に階層移動が頻繁に発生するので、楽しみを削がれたと感じることが多い。
ロビーと同様ランクタワーにも一部屋あたりの入室人数の制限がある。おそらく10階のルーム1、10階のルーム2と、プレイヤーの人数が増えるごとにルームが増えていく仕様と思われる。
なので同じルームでずっと対戦していると、同じ対戦相手とマッチングし続ける可能性が高くなる。人数の少ない部屋に割り振られるとさらにそれが起こりやすい。ルームを選んで入室することはできない。わざわざ部屋を入り直す手間が発生する。
マッチングエラーが起こりやすいという問題もあるが、ランクタワーモードの仕組みそのものの問題ではないので割愛する。
天上界システムの問題点
天上界チャレンジがマッチング運に大きく左右されるのも良くないと感じる。たったの5勝で天上界に入れるか否かが決まってしまう。
対戦相手が大会で上位に上がるようなプレイヤーだと最初から諦めモードで対戦することになる。逆に相手のコンディションが悪かったりするとあっさりチャレンジ成功してしまい拍子抜けしてしまう。
システム上、天上界チャレンジの成功率を上げるためには実力の低い相手を選んで対戦したほうが良い。これを防ぐようなシステム等も用意されていない。
そのため特に工夫をせず自動マッチングで挑戦するよりも、意図的に弱い相手を選んだほうが得をするようになっている。別に不正行為などではないのだが、なんとなく「ズルをしたほうが得をする」という印象を個人的には感じる。
上の問題に通じることだが、一度天上界に入るとそこからはランク分けのシステムが一切ないため、強い人も弱い人もごたまぜで対戦することになるのも問題点だと感じる。
強豪プレイヤーと対戦できるのは確かに最初はちょっと楽しい。しかしあまりに実力差があると、逆に対戦していて申し訳なくなってくる。上手い人の時間を奪ってるんじゃないかと。
ランクシステムの主な目的は「自分の実力と近い相手と自動的にマッチングできること」なので、その意味で天上界が上手く機能しているとは言い難い。
勝つごとに上がる「レベル」の数値があり、これがある程度の実力を示していると言えなくはない。しかしレベルは負けても下がらないため、どちらかというと「やりこんだ量」を示す数値であり、厳密には直接実力を表しているとは言えない。
むしろレベルを上げすぎたせいで、相手に強いプレイヤーだと認識されて対戦を拒否されてしまうという点が指摘されている。対戦拒否の理由を確認できるわけではないので確証は無いが。自分は現在1000レベルだが、10階や天上界チャレンジの相手とマッチングすると対戦拒否されやすいと感じる。
一度天上界に上がると、ゲーム内の数値的な達成目標がほとんど無くなってしまう。レベル上げや月間勝率・勝利数などの上位を目指すといった要素はあるにはあるが、それらはいわばやりこみ勢のためのものであって、多くの一般プレイヤーにはあまり関係がない。
天上界システムの問題点は、ひたすら実力の向上を目指す人や、逆にただただ対戦するのが楽しい、という人にとってはあまり問題にならないかもしれない。
ただ自分のように「とにかく自分の実力と近い人とマッチングして欲しい」というプレイヤーにとっては、デメリットが多く、メリットが少ない。百害あって一利なし、とまでは言わないが、10害くらいあって1利くらいしかない、というか。正直前作までのランクマッチの仕様でも良かった。
しかしその「1利」である天上界チャレンジの楽しさ、モチベーションの上がり方は、確かにメリットとして存在するので一概に否定もできない。
また天上界チャレンジまでいかない10階以下のプレイヤーからの不満はあまり聞かれない。おそらく階層システム自体は上手く機能しているのだろう。
常に天上界でプレイするような上位プレイヤーの意見は、正直数が少ないのでちょっとわからない。ただ「天上界での対戦が便利」という声はあまり聞かない。
近年の格闘ゲームはおおよそ5年以上は同じタイトルを運営していく傾向があるので、もしランクタワーの仕組み自体が変更されるとしたらかなり先の話になると思われる。なので細かい問題点を改善していってもらえることを期待したい。