rh日和(仮)

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『ストリートファイター6』ワールドツアーモードをクリアした感想 完全ではないが偉大な「次世代一人用格闘ゲーム」の第一歩


 『ストリートファイター6』のワールドツアーモードをクリアしました。

 たくさん寄り道して、サイドミッションもほとんどクリアして、キャラメイクにも時間をかけた結果(ストVの是空を目指した)、30時間もかかってしまった。おかげで指と腰にダメージが蓄積しまくっている。



 間違いなく、格闘ゲームの一人用モードとしては過去最高クラスのクオリティだと言える。

 3Dフィールドを舞台にした一人用モードには『トバルNo.1』という高評価作がある(未プレイ)。『グラブルVS』のボス戦もなかなか遊びがいがあった。

 それらと比べて本作のワールドツアーが革新的なのは、現代風の3DアクションRPG的なゲームシステムを採用しつつ、ひととおりのものが仕上がっていること。

 全体にストリートファイター、および同じ世界観のファイナルファイトへの愛が満ちており、細かいイベントやセリフがいちいち楽しい。バグや理不尽要素も見当たらない。



 ただ、格闘ゲームやストリートファイターが初めての人がプレイして楽しめるのかどうかはなんとも言えないところ。

 「普段はFPSやってます」とか「ゲームはSwitchメインです」みたいな人がどれほど満足できるだろう? 是非いろんな人の感想を見てみたいところ。



 例えばリュウや春麗といったプレイアブルキャラクターに弟子入りするシステム。

 まず初対面時に流れるムービーのクオリティがかなり高い。見ただけで感動してしまったムービーもひとつやふたつではない。

 弟子入りしたマスター(師匠)の絆(好感度)を上げると、自分のバックボーンやエピソードについて話をしてくれる。中には今作で初めて解禁される設定もあって驚かされる。ブランカがあんな感じになった秘密とか。「そうはならんやろ…」と思わずツッコんだ。

 ゲーム内スマホにメッセージアプリでチャットやスタンプも送ってくれる。求道者らしくスマホの使い方も「修行」していくリュウ、クールぶっているくせにやたらと返信を催促するキャミィ、用もないのにメッセージをよこしてからかってくるジュリなど、キャライメージにピッタリ。

 さらに好感度が高まると、描き下ろしのスチル(一枚絵)が解禁される。祭りに参加するリュウ、野球に挑戦するダルシムなど、コミカルだったりシリアスだったりする暮らしの様子が描かれる。絵の中に過去作のキャラクターがこっそり描き込まれていたりして、集める満足度が高い。

 DLC第一弾までの全てのプレイアブルキャラクターがマスターとして登場することが予告されているため、来年にはなんとあの豪鬼に弟子入りできることになる。何をプレゼントすれば喜ぶんだろう……。



 好感度を上げるための方法は、アルバイトをしてお金をためてプレゼントを買って送る、という流れ。

 アルバイトはミニゲームとなっており、コマンド入力を練習できるピザ作りや、過去作のボーナスステージでおなじみのスクラップ破壊など。ミニゲームを遊ぶほど格闘ゲームが上達できるような工夫が盛り込まれてはいる。

 しかし全ての師匠の好感度を上げ切るにはそこそこの量の周回が求められるため、やや作業感が強い。必殺技連打でスクラップを壊し続けるのが楽でそこそこ早いが、もはや単純作業。UIがいちいちカッコよく、過去作オマージュになっているのは素晴らしいんだけれど。

 マスターによってプレゼントの好みがあり、好むものを渡すと好感度が多く上昇する。しかしこれも慣れてくると、マスターが好みそうなものを予測して渡すだけの作業になってくる。どちらかというと初めて渡した時のリアクションを楽しむ要素であって、効率を求めるなら汎用のプレゼントをたくさん買って渡したほうが手っ取り早く、デメリットも無い。

 おそらくマスターレベルを上げれば自動的にある程度好感度が上がる仕様になっているが、レベル上げには時間がかかるため、後述のコスチュームを手っ取り早く入手するにはプレゼント集めが必要になる。



 ワールドツアーモード全体がそんな調子で、ストリートファイターやファイナルファイトの世界の「描き込み」はこの上なく的確で工夫に満ちているんだけど、ゲーム性の部分は、良く言えば無難でそつがなく、悪く言えば凡庸でどこかで見たような要素の組み合わせになっている。



 キャラクリエイトは万能ではないがかなり幅広く「遊びしろ」がある。スタイル(基本動作)と必殺技を自由に組み合わせてカスタマイズできるのも、格闘ゲーマーほど「悪いこと」を探す楽しみが味わえる。モダンで下必殺技に「スーパー頭突き」を入れるのがオススメ。

 サブキャラとしてスト1の烈やファイナルファイトのダムドなどが登場。モブキャラの会話も過去作のストーリーやキャラクターを思い起こさせるセリフが満載。街の背景にも様々なキャラクターの看板が立っていたり。



 しかしメインストーリーはやや盛り上がりに欠ける。物語の積み重ねが少なすぎるせいで、クライマックスにイマイチ乗り切れなかった。

 ゲームの進行はマップ上のマーカーを追いかけることに終止する。昔のオープンワールドゲームが課題とし、改善を図った悪い部分を、そのまま踏襲してしまっている。同じルートを無駄に往復させられる場面もあり、プレイ時間の水増しに感じられる。

 マップの作りも悪くはないが、これまで様々な海外ゲームが再現してきたマンハッタン(メトロシティのモデル)の街並みなどと比べてしまうと少々寂しい。

 スト2のケンステージを再現した埠頭は小さすぎて実用に耐えないだろうし、ファイナルファイト風の地下鉄の駅はプラットフォームに階段が2つで改札も無い。いや、実際にそんな駅があるのかもしれないけど。

 戦闘システムは、努力して練られているのは伝わってくるが、やはり格闘ゲームであることが足かせになっている。単なるアクションゲームとしては要素が多すぎて整理がついておらず、なのに結局はレベルを上げて強い技を連打するだけでクリアできてしまう。相手の動きに合わせて突進技か投げ技を使い分ける、くらいしか戦略性が無い。

 フィールド探索要素もそれなりにあるが、主なギミックは「必殺技で崖を飛び越える」か「ドラム缶や箱を壊す」の2つのみ。多彩な必殺技を駆使して謎を解く、といったプレイングは期待しない方がいい。



 はたして格闘ゲームを全くやったことが無い人がこういった要素に直面して「へぇ、ストリートファイターってこういう世界観なんだ」と楽しめるのか、それとも「ちょっと単調なゲームだな」と感じるのか。そこそこ格ゲーをやってきてしまっている自分にはちょっと想像できないのである。



 しかしこれまでの格闘ゲームの一人用モードが良くて「オマケ」程度の内容だったことを考えると、これでもかなり進歩している。

 そもそも対戦ツールとして既に独立し完結しているゲームシステムを土台に、まったく別の3DRPGを作り上げることじたいが、本来は無理難題なのだろう。特に戦闘システムは、アクションとしての自由度を上げると対戦バランスが成り立たなくなってしまうため、他のタイトルも調整に苦労している。そう考えればワールドモードはかなり健闘している。

 格闘ゲームがあらゆるジャンルの中でもより「キャラクターのゲーム」であることを考えれば、ストーリーやフィールドよりも、マスター、つまりプレイアブルキャラクターの描写に最も力が入っているのは、選択と集中の方向としてはこの上なく正しい。



 ワールドツアーで育てたアバターキャラは「バトルハブ」というオンラインロビーモードに持ち越すことができる。集めたコスチュームやエモートを披露したり、育てたキャラで対戦も可能。

 またマスター(師匠)の好感度をマックスまで上げると、そのキャラの別コスチューム「Outfits 2」が全モードで解放される。リュウや春麗などは過去作のような見た目になり、新キャラのキンバリーやジェイミーはカジュアルな装いになる。こっちがメインコスで良かったんじゃ、と思うほどクオリティが高いものもある。

 ワールドツアーが単体で完結したモードでないことが、プレイするモチベーションに繋がっていて、良いシナジーが生まれている。バトルハブに、ワールドツアーで作ったアバターと、「ファイティンググラウンド」モードで培った技術を持ち寄ったプレイヤーが集まる。まさに「ハブ」である。



 なによりワールドツアーモードはある意味で「一人用ストリートファイターの第一作目」なのである。格闘ゲームの歴史を変える進歩の第一歩なのは間違いない。

 今後のアップデートにも期待できるし、あるいはもし本モードを発展・拡張させた新作が、例えば「ストリートファイターワールド」みたいな名前で展開していったら結構面白いんじゃないか。ストーリーは過去作ベースで……。みたいな妄想ができるくらいのモノはあった。

 アクションRPG大作として手放しでオススメするにはちょっと荷が重いかもしれないが、格闘ゲームに興味を持った人がストリートファイターの世界に触れるキッカケとしてはアリかと。

 そしてストリートファイターファンにとっては制作陣のストファイ愛(+ファイナルファイト愛)を存分に堪能できる、マストプレイのモードになっている。