それでも男が黙っているので私は問いかけた。
「何しに来たんです?」
ややぞんざいな口調だったせいか、男はむっつりとして小刻みに身体を揺らしている。
こんな事をしていても何の意味もない。そう思った私は、男の横をすり抜けて家を出た。後ろを振り返らずに。
しばし歩いた先は街道。町並みはさっきの男の顔のように青白く薄暗い。昼間だというのに。昼間?今は昼間だったっけ?
薬局の前に、ゾウのマスコット人形が置いてあった。唐突にしゃべり出す。
「光を分けて下さい」
すると私は急に意識が遠くなり、同時に食道のあたりから熱いものがこみ上げてくるのを感じた。ぶおっ、という音がして、なんだかやたらに眩しいと思っていたら、意識がはっきりしてきて、目の前にあるのが光の玉だという事がわかった。どうやら私がはき出したらしい。
これはこいつに譲るべき物なのだろう、と思っていると、光の玉はふらふらとひとりでに人形の方に飛んでいき、人形の体内に入り込んだ。
どくん、どくん、という音に併せて明滅する人形。鼓動を打つ度に少しずつ形が変わっていく。やがて完全な人間の男になると、鼓動が止んだ。
「ありがとう」
人間になってもマネキン然としたその顔で、はにかんだように少し微笑むと、元人形の男は私が来た方向へ去っていった。おそらく彼が、私の家の前に立っていた寡黙な男の運命を変えてくれるだろう。そんな予感を抱きながら、私はさらに歩を進めた。