嘘はついていない。本当のことを言っている。
夢の中に怪人が出てきて語る。己の無力さ一般について。どうやら「己の無力さ一般A」の講義を落としたらしい。じゃあこれは補講か。心の補修授業。
心について足りないことがあると、何時も心のマンボウが出てくる。その厚ぼったい唇からこぼれる泡は、細かく砕けていき、やがて光の粒に変わる。
冗談はその位にして、とわれに帰った自分。紫のうねりを見ていると、こんがらがった思考が一本の糸に。
ダメじゃないか、大事な物は鍵をかけてしまっておかないと。箱に入れただけでは、その蠱惑な蜜が流れ出して、大事な物の大事さが失われてしまう。
そうこうしているうちに扉を叩く音。兵隊だ。素直に扉を開ける。真っ青な顔色。厳つい目元。黙ってこちらを睨み、突っ立っている。
「我輩である。」
そうしわがれた声で言い、またぞろこちらを見ている。その一言で、こっちが勝手に用事を済ませてくれると思いこんでいるのだ。
しかたないから私も黙っていることにした。