あなたが歌をうたうのではありません。歌が歌をうたうのです。というのは言い方の問題、表現の問題であるからして、大した差はないのだけれど。
ついつい自分が歌を歌っていると考えがちだけれど、それは僕の実感としてはあまり正しくない。歌うということは、僕が音楽そのものになりきるということだ。そしてそれ自体に大した意味はない。高尚も低俗も存在しない。
音楽が人を良い方に導いてくれるかというと、必ずしもそうとは限らず、むしろ音楽なんて無ければよかったと思うことも多々であるが、世界には音楽が存在して、音楽に成りきる人たちが存在して、それでいいのだと思う。それ以上もそれ以下も、なにも存在しないのだと思う。
それは生きるということと等しいので、ついつい、生きることは音楽ですなどと言いたくなるが、全然そんなことはなく、音楽のない人生、音楽のある人生、どちらとも言えないような人生、いろいろある。まぁつまり、人生は音楽のようなものであり、音楽もまた人生のようなものであるということだろう。